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大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)854号 判決

主文

原判決を取り消す。

被控訴人は控訴人に対し金四七一、〇〇〇円及びこれに対する昭和三六年一月一二日以降完済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

右第二、三項に限り控訴人において金一〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

控訴人は主文第一ないし三項同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する」との判決を求めた。当事者双方の事実上の陳述並に証拠の関係は控訴人において、控訴人の株式会社住友銀行に対する譲渡裏書は取立委任の目的をもつてなされたものである。控訴人は、本件為替手形を、株式会社神戸銀行ならびに株式会社住友銀行より順次返還をうけて所持人となり、引受人たる被控訴人に対し本件手形金ならびに呈示以後の遅延損害金の支払を求めるものであつて、再遡及をなすものではない。と附加補正し、甲第一、二号証を提出し、証人横山友久、同藤田一男の各証言を援用し、乙第一号証の成立を認め、被控訴人において乙第一号証を提出し、甲第一号証の成立を認めて、これを利益に援用し、同第二号証の成立は不知と述べたほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する(但し原判決一枚目裏九行目「受取人被告」とあるを「支払人被告」と、同三枚目表五行目「同会社の更正」とあるを「同会社の更生」と各訂正する。)

理由

控訴人主張の為替手形(但し、受取人および振出人欄の記載を除く)に被控訴人が昭和三五年一〇月七日引受をしたこと、控訴人主張のとおり右手形を控訴人が訴外有限会社白鷺滋富食品工業所から裏書譲渡を受け、これを株式会社住友銀行に裏書譲渡し(但しこれが取立委任の目的をもつてなされたものであるか否かを除く)、同銀行はこれを株式会社神戸銀行に取立委任裏書し、同銀行は同手形を昭和三六年一月一一日支払場所に呈示したが、支払を拒絶されたので、控訴人は順次返還を受け、自己以下の裏書を抹消して、現にこれが所持人であることは当事者間に争がない。

証人藤田一男の証言に成立の争のない甲第一号証を総合すれば、被控訴人が前記昭和三五年一〇月七日右為替手形の引受をなすと同時に同手形に前記有限会社代表取締役井上繁一が振出人及び受取人として署名捺印したことが認められ、右認定に反する証拠はないから、被控訴人の白地補充権濫用の主張は理由がなく、控訴人の引受が有効なことは明らかである。次に、前掲甲第一号証、証人横山友久の証言により成立を認める甲第二号証に同証言を総合すれば、控訴人は取立委任の目的をもつて本件手形を株式会社住友銀行に対し譲渡裏書したものであることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

右事実によれば、控訴人の株式会社住友銀行に対する譲渡裏書はいわゆる隠れたる取立委任裏書であるから、これにより手形上の権利は控訴人から右訴外銀行に移転したものと解すべきである。しかしながら、控訴人が右訴外銀行以下の前記各裏書を抹消して該手形の返還交付を受けたことは当事者間に争がないから、控訴人は右裏書抹消と手形交付の方法により手形上の権利を再取得したものと認めるのが相当である。

次に被控訴人は、本件手形は被控訴人が控訴人に融資をえさせるために引受けたもので、控訴人より被控訴人に対し請求をしない旨の特約があつたと主張するが、証人横山友久、同藤田一男の各証言によれば、控訴人は前記訴外会社に対し有していた製菓原料売渡代金の支払を受けるために、被控訴人引受の本件手形を右訴外会社より受取つたことが認められる。成立に争ない乙第一号証はその記載内容と証人藤田一男の証言とによれば、被控訴人が本件手形を満期に支払えない場合に控訴人が一ケ月間支払の猶予を約したものに過ぎないことが認められるから、被控訴人の右主張事実を認めるに足らず、他にこれを認むべき証拠はない。

したがつて、被控訴人は控訴人に対し本件手形金四七一、〇〇〇円及びこれに対する前記支払呈示の翌日である昭和三六年一月一二日以降完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払をなすべき義務がある。よつて控訴人の請求はこれを認容すべきものであり、本件控訴は理由があるから原判決を取り消し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九六条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

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